箱白

ツァラトゥストラを、推し語りき(読書感想文)

ドイツの哲学者ニーチェはその著書の中で語る、「神は死んだ」と。

その著書こそ、『ツァラトゥストラ』。ちなみにこれは、主人公の名前でもある。

 

読んだ。感想。

 

だああああああああっっ!ツァラトゥストラアアアア!

オッケー今すぐ行こう、飲みに行こう!!

なんでも奢るよ、あんたの愚痴をいっぱい聞かせてくれ!!鳥貴族でな!!!

 

あんたに友人が少ないなら、年一くらいの頻度で飲みに行こう。私はあんたの飲み友になりたい。

でも親友にはなりたくないし相棒にもなりたくない。

なんか、そんな距離感で飲みに行きたい。

 

______誰だ、ニーチェを「小難しい哲学書を書いたひと」とか言ったやつは。
これのどこが!?

私に言わせるなら、あいつは悟り系毒舌ピリ辛のイケメンだよ!!

いきなり歌い出すし踊り出すし、あんたはミュージカル俳優か?しかもふとした瞬間に見せる深い愛情と優しさでギャップ萌え要素もバッチリ。

気に入らない連中を嘲笑する表情から、恋するあの人への口説き文句まで、どこを切り取ってもキャラが立っている。

濃い。濃すぎる。

読めば読むほどスルメのごとく味が出てくるのが面白い。
ああ、キャラとして美味しすぎるんだ、ツァラトゥストラは。
言ってることの大半は意味不明だけど、それでもなぜかその言葉のリズムはスッと心の中に入ってくるんだ、ツァラトゥストラは。

 

でも、やはりあいつは人間にとっての親友にはなれないな、と思う。

友達、くらいで十分だ。孤独を愛するあいつのことだから、多分親友になろうとする奴がいても突っぱねるだろうし。

あれだ、突然LINEのともだち全部消しちゃうような性格だよ、きっと。

で、しかもそれ定期的にやっちゃう人だよ、きっと。

うん、普通にあんな気難しいやつと四六時中一緒にいるのはきつい。私、無理だ。

 

それでも、ちょっとだけ共感できる部分については一緒にお酒を飲んで愚痴でも言って吐き出して語り合う、そんな風な感じであいつの友達になってみたい。

年一くらいで会うのがちょうどいい。それくらいの距離感がいい。

 

もしそれがダメなら、私はあいつをキャラクターとして描いてやろう。

_____勝手にしろと言われるだろうな。うん勝手にするよ。いまこの瞬間に肉体を持って生きているのは私のほうさ、残念だったなあツァラトゥストラ。

 

 

えーー、__________これは私の個人的な読書感想文である。
こういう感じの文体の、感想文である。

 

 

ツァラトゥストラを、推し語りき

キャラクターとしての魅力

 

あいつの行動の動機は、いつだって「愛」だ。
人間への愛、世界への愛。
大きすぎてもはやよくわかんない愛。

 

けれど、あいつはちょっと色々経験しすぎた。
愛を与えたくてもうまくいかなくて、挫折が多すぎた。

 

そして色々考えすぎた結果、拗らせて、オレ様拗らせ系毒舌悟り男子になった。

 

もし今流行りの二次元化するとしたら、確実にイケメンキャラであろう。
しかもさらにまた流行りの、2.5次元俳優が歌って踊るミュージカルになりそうなタイプのコンテンツである

売れる気しかしない。

 

これは、愛を胸に秘めながら壮絶に拗らせたちょっと不器用でコミュ障気味なお兄さんの物語である。

イケメン要素を中心に、(主に独断と偏見だらけで)ツァラトゥストラのキャラクター性を語らせていただきたい。

 

絵に描いたような俺様キャラ

 

イケメンを推すタイプのコンテンツには決まって俺様キャラがいるものだが、ツァラトゥストラは絵に描いたような俺様キャラである。

 

「おれの考えを聞かせてやろう」という態度。
基本的に「自分」が世界の中心である。

_____まあ、これはどちらかというと自己内観の物語なので「自分」が中心になるのは自然なことではあるが、人に合わせようという感じはまるでない。

 

ツァラトゥストラは、人間の世界に降りて「プレゼントをする」ことを目的にしている。

____何を?愛を?
見返りもいらない、ただただ人間に何かを贈るための旅が、あいつの行動の動機だ。

 

____と、言いながら、実際にプレゼントするために人前に出て世界を説いてみれば「俺の話を聞けえ!ドヤア」の態度。

話すのが下手くそである。

 

ただ、面白いのは、この俺様キャラは作中で定期的に山籠りをするたびに性格がまるくなっていくところだろうか。

「うまく人間たちの中に馴染む」処世術を学んでいくのがものすごく現実的で生々しい
誰彼構わず俺様気質な物言いをする、というわけではなくなっていく。普通に愛想笑いもする。

 

そうやってどうやって人間にプレゼントをするかを学んでいく。

そして、同時にどれほど人間の世界が汚ったねぇか、も知っていく。

 

歌とダンスが得意

 

本書のタイトルを『ツァラトゥストラはかく語りき』と訳す場合もあるが、あいつは語るだけではない。

突然歌いだす。一人二役、三役を同時にこなす。そして踊る。
ステップを踏んで軽々楽しそうに踊る。

 

……ミュージカルの台本か何かか?と思うほど、歌うときはずっと歌っている。

あいつはアイドルか何かなのかもしれない。(アイドルを偶像、と解釈するならあるいはそのとおりなのかもしれないが)

あいつは楽しそうに踊ってる人を見ると無条件に嬉しくなってしまうらしい。

とおりすがりに見つけた踊ってる女の子たちの輪の中にいきなり乱入して自分も踊り出す。

……知らない子供に声をかけていきなり踊りの輪に乱入してくる成人男性。

冷静に考えると不審者である。


実際、他の章では「ツァラトゥストラと目を合わせちゃいけません!」と子供を隠す母親が描写されているが、これに関してはその母親に完全に同意したい。
興味を持った人に対しては普通に話しかける。

相手が子供でも。いや、そりゃその子の親は心配するって。

 

ツァラトゥストラは、基本的には一人で歌を歌うが一人で何役もこなす。

非常に演劇性が高い。舞台映えもするだろう。

普通に現代のミュージカル作品にもなりそうな気がする。

ただ、問題があるとすれば、あいつはとにかくぼっち属性が強いことだ。
歌って踊るときもだいたいあいつ一人が演じてるから、舞台にすると必然的にずっと一人芝居になる。ちょっとネタっぽい。

 

イケメン要素をふんだんに持っている割にはこうしてオチがつくところが、美味しい。

キャラとして、とても美味しい。

 

毒舌

 

あいつは筋金入りの皮肉屋で毒舌だ。
物語の中ではツァラトゥストラの一人称視点のセリフにて語られる部分が多いが、まず言葉の選び方が捻りすぎてる。

そして何より、気に入らないものへのdisり方がひどい。


わざと怒らせるような言い方をするのが、あいつの常套手段だ。
語気も強いし態度も強気である。

かなり感情的になって言葉を発するタイプだ。

 

比喩をふんだんに使うが、その比喩も正直わかりにくいものが多い。

頭をこねくり回して考えたか、もしくは口が先に動いて発してしまったのか。
文学的な側面から考えるなら多分、なんかのパロディとか引用とかそういう高尚な知識を土台にしているんだろうが、あいにく私は無学だ。理解できない。


しかし、詳細を理解できないのに言葉の端々から「これは皮肉ですよ〜〜〜」という色が滲み出ているのが不思議だ。

しかも皮肉って笑う言い方が、なんか性格悪い。

悪役じみた言い方もする。あんな感じで普段から人と接していたら、普通に嫌われるだろう。

 

しかし一方で、ツァラトゥストラの胸の中にあるのはやはり「愛」

そしてそれをあたかも無いかのように振る舞うのがあいつのやり方だ。
人間が好きなくせに、それを表に出すことをやめた。色々経験して考えた末に皮肉った表現の方法に行き着いた_____それがあいつの出した答えだ。

不器用だよなあ。でもこういう人、いるよね現実にも。

でも、ごく一部のものに対して、ツァラトストラは優しさを見せることもある。
没落するものへの優しさは格別だ。自分と同類の人間を見つけると、自ら寄って行って話しかける。

あいつは基本的に孤独だ。

 

 

孤独を拗らせてる

 

群れない、一匹狼。

といえば聞こえはいいが、基本的にあいつは寂しがり屋でもある。
理解してくれる人が他にいないから、一人でいる方がいい。

でも、本当は、友達が欲しいなあ……と思っている。

ちなみに、初めてのお友達は死体だった。

 

 

孤独を愛していると本人は言うが、果たしてどこまでが本心か微妙だ。

多少、強がりもあるのだろう。
作中、いきなり弟子の存在が出てくるが、どこかやはり距離を置いている

。____弟子はあいつにとっての理解者にはならないらしい。

 

次第に、あいつは自分の中で世界を完結させるかのように、自分と対話をするようになる。

 

動物とお友達

 

ところで、孤独なあいつにも実は友達がいる。

 

ワシとヘビだ。

 

ペットのように一緒にいる。

もふもふでかわいい系の動物を選ばず、敢えてかっこいい系の動物を選ぶところもあいつの性格がよくわかる。

 

そして、この鷲と蛇は言葉をはなす。

 

「ねえツァラツゥストラ!」と語りかけるし、ご飯をとってきてくれるし、一緒にずっといてくれる。

眠っているあいつを見守るし、お留守番もできる。

ツアラトゥストラの身の回りのお世話もしてくれる。

 

 

……ペットというか、保護者?

 

 

お互いに信頼関係を築いているので、あいつもこの鷲と蛇を相手にするときは本音で話せるらしい。

人間に対する態度と、この二匹に対する態度のギャップにぜひご注目を。

 

 

 

恋するあのひとにはデレ甘

 

さて、気に食わない連中への態度は非常に横柄でdisる語彙力は容赦ないが、一転して恋するあの人へ眼差しは若干引くほどアッツアツで甘々である。

 

ツァラトゥストラの、清らかなものへの憧憬は凄まじい。

いつもツンツンしているのに、大好きなあのひとには打って変わってハートマーク飛ばしまくり。
クソな連中を嘲笑するときの皮肉はどこぞへ消え、ストレートな愛の告白オンパレード。

完全に「年上のおねえさんに恋する少年」になっている。

 

そして愛するあのひとへの告白は、基本、自作のポエムである。

お前はバンドマンか?ちなみに楽器もいける(竪琴)ので弾き語りもできます。

今で言うと、……ギター兼ボーカル?

 

さあ、さらに畳み掛けよう、

下巻ではツァラトゥストラの愛の告白とプロポーズシーンがあるんですよ。七回も。

結婚指輪持って、七回も。

 

 

…、

 

……え、そんなフラれてんの?

だ、だいじょぶそ…?

 

 

 

これは私の解釈だが、あいつは絶対年上のお姉様が好きに違いない。
優しい微笑みを投げかけながら、自分を手のひらで転がしてくれるような存在にたまらなく魅力を感じるタイプだろう。

しかも大人の魅力むんむんな感じの女性じゃなくて、年上だけど無邪気で可愛いタイプ。

笑顔がかわいい年上の小悪魔系。

翻弄されたい、悩ませてほしい。

その苦悩と向き合う時がきっとあいつにとって一番幸せな時間になるんだろう。

と、私は思った(あくまで感想)

 

 

 

あと、たまに真面目な話をしている中に突拍子もなく「女の乳房は素晴らしい」的なことを言い出す。

そのせいで読んでいるこちらが「…ん?今そんな文脈だったか?」と困惑する。

___おい雑念入ってるぞ、ツァラトゥストラ。

ちなみに普通に堂々と性欲について語る章もあるし本人も性欲そのものを肯定している。

うん、きっと普通のお兄さんなんだな、と思った。

 

 

定期的にメンタルが弱くなる

 

基本的に毒舌キャラだが、定期的にメンタルやられてひどく落ち込むのがなんとも人間らしい。
俺の話を聞けえ!という態度はとっていても本人の中には迷いや憂いはたくさんある。

そして未熟な部分も多く描かれる。ていうか、そっちの方がメインである。

 

ツァラトゥストラは、聖人君主などではない。

ちょっとコミュ障気味で人間不信気味なお兄さんである。

 

ある程度俯瞰的な視線を持ってはいるけれど、だからなんだ。ただの人間だ。
そして、自分が人間であることを悲しみながら喜んでいる、という矛盾を常に抱えている。

あいつにはあいつなりの悩みがある。

時に強がりながら、時に挫けながら、自分を奮い立たせようとセルフ声掛けをする。

 

そして色々頑張った末に人間不信になって、世の中が嫌になっては山に篭りに帰っていく。

そして山籠りのなかで孤独に耐えられなくなると、また人間の世界に現れる。

あいつは基本的に自問自答しかしないから、何かを教わるときは自分に教わるしかない。

 

どこまでも孤独なやつ。

でも、その孤独こそあいつにとって居心地がいいんだろう。

 

そういう弱い部分、未熟で不安定で矛盾を抱えている部分が描かれてこそ、物語としてもキャラクターとしても共感性がうまれるのだろう。

 

 

ツァラトゥストラ、あなたにこう言ってやろう

 

ツァラトゥストラは人から先生と呼ばれる立場だ。

予言者(という設定)だから。

けれど読んでてやはり思う、私はあいつを先生などとは呼びたくない。

人は、「先生」と呼ばれるほどに孤独になるし、「プレゼント」をすればするほど孤独になることをあいつは知っている。

 

そして孤独をあいつは寂しがるくせに、同時にそれを好んでいる。

一見矛盾したこの気持ちを、あいつは俯瞰目線になりながら楽しんだり、あるいは人間目線で苦しんだりしてさまざまな感情を味わっているようだ。

苦しみや憂いでさえも「負の感情を感じることができる喜び」の一部分にすごないのかもしれない。

 

そういうわけで、『ツァラトゥストラ』を読んだ私は、もしあいつに声をかけるならこう言おう、と思った。

『残念だったなあツァラトゥストラ!

お前から静かな孤独を奪ってやるよ。

どうだ、生ぬるい中途半端な友情ごっこは?

一緒に酒を飲んでやるよ!

一緒に世界について語ろうじゃないか。

これでお前の孤独は癒えて、一層自分から山に篭りたくなっただろう?

れでまた恋しくなって戻ってこいよ、薄汚い人間の世界に自ら望んで戻って、没落しろよ。

そしたらまた一緒に飲みに行こう!』

 

皮肉屋には皮肉で、口の悪い奴には口の悪さで話しかけたくなるものだ。

最初は「友達になろう」と言うつもりだった。でもやめた。

うん、どうせそんなこと言ったところであいつは無視するだろうし、私は私で実はああ言う性格のやつは友達としては好みではない

深く仲良くなれる気がしない。

案外、私はあいつとちょっと似てるのかもしれない。
まあ、似ているからこそやっぱり友達にはなりたくないんだけれど。

 

この、愛情の裏返しの裏返しのそのまた裏返し……

一体どこまで裏返してるのかわからなくなるような、深い愛情の拗らせ方がたまらなくキャラとして魅力的に見える。
こうして読書感想文を書くくらいには、私は『ツァラトゥストラ』が愛読書になった。

 

画像
↑勢いで描いた広告バナー的な何か

読んだ本

ツァラトゥストラ〈上〉 (光文社古典新訳文庫)www.amazon.co.jp

858(2022年10月10日 10:44時点 詳しくはこちら)
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めっちゃ口語。格調高い感じはないです。
でもすごく読みやすくて面白かったです!!!!
丘沢静也さんという方の訳書でした。めっちゃすげえ。

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アーティスト / スピリチュアルカウンセラー|箱白

箱白

霊視、チャネリングを通してスピリチュアルと宇宙の法則を探究をしている【箱白】の公式サイトです。
スピリチュアル的背景を土台にしたアートやイラストも制作したり、霊視カウンセリングもやってたり。

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